私がコーチになるまで

パキスタンで意識改革の力に目覚める
最初は、パキスタンで仕事をしている時、「意識改革」の力に魅せられたのが始まりでした。
私が働いていた当時(2012年~2016年)、パキスタンでは誤った宗教観念に基づく差別問題が根強くありました。
キリスト教の村が焼き討ちにあったり、ヒンズー教徒と一緒にご飯を食べると病気になる、などの迷信があり、多くの少数派宗教(例:キリスト教、ヒンズー教、シーア派など)の人々は差別を受け、虐げられていました。
イスラム教色の強いパキスタンでは、宗教差別問題を扱うのは大変センシティブで、人々の差別意識を変えるのは難しい試みではありましたが、私が勤めていたNGOでは、宗教指導者や、新聞記者、大学生などの若者を対象に、この問題を取り上げて差別意識を撤廃しようとする啓発活動を行っていました。
パキスタンは、多民族国家です。その多元性・多様性を、争いの種ではなく平和の糧とするためにはどうするかを、プログラムの参加者は活発に議論していました。
最初は「シーア派は異教徒だから殺されればいい」「パキスタンはイスラム教徒の為に作られた国なのだから、イスラム教徒の権利がまずは優先されるべき」というかたくなな考えを持っていた参加者も、それまで嫌煙していた少数派宗教の人々と直接接し、数日間を共に過ごしながら、彼らが日々どう感じているかを聞いていくうちに、少しずつ考えを改めていき、ワークショップの最後には「自分は間違っていた。人は皆平等だ。」と言うまでに意識が変っていました。
そして、ワークショップが終わった後も、自分たちの学校やコミュニティで、他宗教への理解や、宗教差別ををなくし平和を求める運動を、自らがイニシアティブを取って始める参加者が出てきたのです。
自分たちの考えを改めるだけでなく、自らがチェンジエージェントとなって社会の問題に取り組んでいく様子を目の当たりにして、私は「意識改革」のポテンシャルに感銘を受けます。
そして、いつか自分も誰かをインスパイアし、行動変容を引き起こす人材になりたい、と思うようになりました。
今思えば、これが私をコーチングに導く最初のきっかけで、その頃から少しずつ、コーチングというキーワードが頭に引っかかるようになりました。
“聴くこと”が仕事になる
パキスタンで目にした「意識改革」のポテンシャル。その強烈なインパクトに魅せられてから数年後、私はキャリアの転換点を迎えます。
その頃、夢だった国連での仕事に就き、途上国開発支援に情熱を注いでいた一方で、「何かが足りない気がする。私が求めていたものは本当にこれだったのだろうか?」という違和感を心の片隅に抱え始めていました。
そんな折、産休で少しまとまった時間が出来たのを機に、ずっと引っかかっていた「コーチング」というキーワードをきちんと掘り下げて学ぼうと思い立ちます。
いざ受講しみると、自分でも驚くほどその魅力に引き込まれました。「私が求めていたのはこれだ!」という感覚に突き動かされるように、一気にコーチの資格取得まで進みました。
コーチングの何がそこまで私を惹きつけたのか。それを一言で表現するのは難しいですが、はっきりしているのは、「誰かの話を本当に『聴く』ことで、その人の人生を深めるお手伝いができる」という事実に、私自身が強く心を動かされたからです。
それまでは、英語で勝負する職場環境にいたこともあって、「自分はもっと話し上手にならなければ」という焦りに囚われていました。話すことばかりに意識が向き、聴くことの重要性に気付けていなかったのです。
しかし、コーチングを通じて初めて「聴く力」の持つ可能性と、聴くことで誰かの成長に関われる喜びを体感しました。自分の強みを活かし、且つ挑戦し続けられる道だと確信した瞬間でもありました。
コーチとなった今は、お客様の言葉の奥に潜む「心の声」に耳を傾け、その方の人生が深まったり、世界が広がったりする瞬間に立ち会えるときの純粋な喜びが、私の活動の原動力になっています。